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(自称)落下王はいつも落ちてた追憶



人の夢
「だからね、蝶々とダンプなのよ」

 夕飯を食っているとき、ふと、夢の話に華がさいたとき、姉は自分の夢のイメージをそうやって表現した。
「……は?」
「だから、蝶々とダンプ。女の人が蝶々で、男の人がダンプなの」
「蝶々、ダンプ」
「そう」
 わけわからん。
「たまにね、夢から目が覚める直前になると、二人の人の話し声が聞こえてくるのよ。その二人ってのは声だけしか聞こえないんだけど、声の感じからすると間違いなく男女なの。で、その二人の声からのイメージが」
「蝶々とダンプ」
「やっとわかってくれたのね」
 先にそれを言え、と口元まで出かけたその言葉を私は飲み込んだ。
 というのも我が家での権力は 

 姉>>父>>母>>私>>犬、猫>>祖父
 もしくは、
 父>>姉>>母>>姉>>猫>>犬>>父>>私

 のどちらかになっているのだ。先に言っておくと、二つ目のほうで姉と父が二度出てるのはミスではない。しょっちゅう入れ替わるのだ。基本的には上の構図になるのだが。
 で、見てもらえばわかるとおり、姉はかなりの権力者なのだ。我が家の明日の運命は姉にかかっている……とまではいかないが、それなりに権力を持つ姉の機嫌を損ねようものなら、翌日の朝飯は保障されないという恐ろしい事態がまっている。
 だから私は、そう簡単に姉に反論できないでいる。
 唯一反論出来ることといえば、天然ボケな姉の思い込みを直してやることくらいか。

「で、その声が、なんだっていうのさ」
 代わりに別の言葉を言ってやる私。
「たまにね、どんな夢を見ていたとしても目覚める直前になると、目を瞑ってるはずなのに天井が視界に入ってくるの。きっと目を瞑ってるって思ってるだけで開いてるんだろうけど……とにかくそのときにね、急に天井が近づいてくるのよ」
「ほう、天井が。近づくと」
「かと思えば今度は離れていくの。で、また近づいて。それがずっと繰り返されるの」
「近づいて離れての繰り返し……」
 その光景を頭の中で想像してみる。

 まるで落ちてくるかのように近づく天井。が、それも目の前まで来ると急にブレーキがかかり、次の瞬間には天井は全力でバックしていく。ある程度バックするとまたも自分に向かって近づいてくる。
 まるで、自分がボールとなって地上から天井目掛けて何度も投げられてるみたいだな、と思ったら気持ち悪くなった。私は乗り物酔いをしやすいので、そんなことはされたくもない。御免だ。
「そうするとね、ちょっとずつ視界は白くなっていって……霧みたいな感じかな?」
「それって、やっぱりまだ意識は覚醒してないってことだろうね」
「だから、起きる直前って言ってるでしょ。ちゃんと聞いててよね、バカゾンル」

 東と西を逆に覚えている人間にバカ呼ばわりされるとは……。

「とにかく。霧みたいなのがかかってくるとね、左右それぞれの耳に、男女それぞれが何事か話しかけてくるのよ」
「へェ。なんて言ってくるのさ」
「ダンプな男の人はね、『アイス食べたい』、蝶々な女の人は『助けて』、かな」
「…………」
 アイス。そして救いを求める声。
「なんか二人ともすごくボソボソとした、弱々しい声で言うのよ。女の人は声が高いからいいけど、男の人は声低くて……不愉快になったところで目が覚めるわ」
「じゃああれか。姉さんは毎朝、不愉快な気分で起きてくるわけか」
「毎日じゃないのよ、出てくるのは。一ヶ月に、多くて二回かな」
「少なっ」
「多くても困るわよ」

 とまぁそんなこんなで、姉はどうやら男女の変な奴らの声で起きるらしい。
 それは、あれだ。一歩間違えれば精神病院に連れて行かれそうだな、と思う。前々から変な……というか危ない姉だとは思っていたが、まさかそこまでとは。

 食事も終えて、私は席を立つ。
「姉さん」
「なに?」
「よろしく言っといて。その、姉さんの脳内ワールドの住人さんに」

 不意に腹部に衝撃がはしり、私は今食べたばかりの夕飯を危うく戻しそうになった。
by zonru | 2004-10-01 22:56 | 戯言

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